LOGIN『葵お兄ちゃんっ、ごめんねーっ!』 そう言いながら部屋に飛び込んできた鈴ちゃんの姿が目に焼き付いて離れない。 あれって所謂彼シャツって奴だよね…。 ってダメダメ。忘れなきゃ…。うぅ…無理。可愛かった。滅茶苦茶可愛かったよ、鈴ちゃん。 昨日から僕、理性試されてばっかり…。 クローゼットから出していたシャツを羽織り、しっかりとボタンを閉めた。 …駄目だ。つい思い出しちゃう。…服着たばっかりだけどシャワーでも浴びようかな…。水でも浴びたら少しは…。あぁでも鈴ちゃん、着替えてくるって言ってたっけ?戻ってくるなら下手に移動も出来ないか。 なら、他の事に集中すれば…。そう言えば昨日買った本があったな。それでも読もうか。 鞄の中から本を一冊取り出す。 ヘアアレンジの本だ。確か鈴ちゃんに似合いそうな髪型があったんだよね。えっとどこだっけ…。 昨日の鈴ちゃんの髪型も可愛かったんだけど、あの服装ならこっちも似合うって確か思ってたのが…。…昨日の鈴ちゃんか…。理性を試されたは試されたんだけど…正直言って嬉しかったって気持ちの方が強かったな…。―――昨日の会食。 ガタンッと部屋の中から音がして、僕と棗が慌てて襖を開けて中へ入る。 するとそこには、倒れた鈴ちゃんを抱き起してる鴇兄さんと、ニヤニヤと笑っている都貴社長とその息子の姿があった。 怪し過ぎる。一体鈴ちゃんに何したんだっ。 僕と棗二人で問い質そうと一歩踏み出した。けど視線だけで鴇兄さんに制される。 しかも、鈴ちゃんが急にむくりと起き上がると、鴇兄さんの頬にキスをして、えへへっと笑いながら立ち上がった。 これはもしかして、鈴ちゃん酔っぱらってる? ふらふら~、ふらふら~…ダッシュっ! 「って、えぇっ!?鈴ちゃんっ!?何処に行くのっ!?」 「鈴っ!?」 ど、どうしようっ!?とにかく追わないとっ!! 「…葵、棗。美鈴は任せた」 「う、うんっ」 「分かったっ」 鴇兄さんの目がガンガンに吊り上がってたって事と、都貴社長のあのニヤケ顔。あいつらが鈴ちゃんに酒を飲ませたんだろうって安易に推測出来た。 だったら、この場は鴇兄さんが適任だ。 僕と棗は何合図する事なく、振り向き走りだす。 そして僕は右に、棗は左へと別れて、鈴ちゃんを探した。 廊下を走ってはいけないと言えど、今は緊急事態だから許し
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十一話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。さて。皆様おはようございます。 朝です。えぇ。雀がビチビチと鳴く朝でございます。 ここで皆様に一つ、聞きたい事がございます。 何故、私は今家にいるのでしょうか?いつの間に帰って来たんだろう? 「全く記憶になーいっ!」 叫んで、必死に記憶を呼び戻そうとしているんだけど。全然思い出せない。 昨日一体何があったっけ。……えーっと都貴社長との会食があって…あぁ、そうそう何かオレンジジュースのんで…あ、そうだ。あれお酒だったんだよねっ!柑橘系とお酒ってあれじゃん。有名なスクリュードライバーって奴。 なんてことするのよ、あのハゲ親父は…。がるるるる…。 ベッドから降りて、裸足で歩く。 服もシャツ一枚で寝てる辺り、きっと真珠さんがどうにかしてくれたんだろうなって予想が……予想が? ………ちょっと待って? これって誰のシャツ? 下着はしっかりつけてるし、乾いてるから何もなかっただろうことは確かだけど。 すんすんとシャツの匂いを嗅いでみると…。 葵お兄ちゃんのフレグランスの香りがする。これ、葵お兄ちゃんのシャツだ。 さーっと血の気が引ける。 も、もしかしてさ?もしかすると…何かやらかしたり…? 急いで昨日私の意識がない間に何があったのか、聞きに行かなくちゃっ! 部屋を飛び出して、隣の部屋である葵お兄ちゃんの部屋に飛び込んだ。 「葵お兄ちゃん、ごめんねーっ!」 「わっ!?」 ………。 申し訳なさMAX。 着替えてる最中に飛び込んじゃった…。 下は着替え終わっててくれたのがせめてもの救いかな。うん。 「えっと…何がごめんなのか、大体想像はつくけど。鈴ちゃん。とりあえず、着替えてこようか。その…僕のシャツだから隠れてはいるけど、朝から、その、刺激が強過ぎる、から」 「刺激が、強い…?」 余所を向いた葵お兄ちゃん。何が刺激強いんだろ? 自分の恰好を改めて確認。えっと、まず葵お兄ちゃんの大きなシャツでしょう?その下にブラ一枚とショーツ一枚…以上です。 あ、これ駄目だわっ! 「ご、ごめんねっ!葵お兄ちゃんっ!き、着替えてくるーっ!」 私は行きの倍の速さ
「いや、あのね。美鈴ちゃん」 「ふみ?」 「僕、これでももう二十歳を過ぎた男なんだよ」 「うん」 「だからね?これはもう無理だと思うんだ」 「奏輔お兄ちゃんも出来たから大丈夫だよっ!グッ!」 「いや、グッ!じゃなくて…」 どうして、今更女装をしなければならないんだ…。 僕はがっくりと肩を落とした。 いや、これから立食パーティだってのは解ってる。 そして、僕も美鈴ちゃんもそれぞれ違う立食パーティに出なくてはならない。 それも理解している。 更に言えば、僕の立食パーティは参加者が皆女性。逆に美鈴ちゃんが出なければならない立食パーティは参加者が全て男性なのだ。 正直今の僕達にはきつい。 一応全て理解している。 だからどうにかして、互いの出るパーティを交換できないだろうか? と考えた結果。 じゃあ、女装、男装すれば良いんじゃん? と美鈴ちゃんが出した突拍子もない案に、何故か誰も反対をせず…。 今に至る…。 「……美鈴ちゃん、本気?」 「本気っ!」 「最初から、手紙か何かで双方不都合の為参加出来ませんが変わりに相方を参加させます、で良くない?」 「良くない。場の会話と雰囲気を知る事が大事なの」 「視線が違うと知りたい内容も変わるのでは…?」 「良しっ、優兎の髪型完成っ!バッチリ美少女っ!」 「嬉しくないよ…。でも、美鈴ちゃんはカッコいいよ」 「ありがとうっ!」 胸を張る美鈴ちゃんが可愛いと思う時点で僕はもう末期なんだろうな…。 仕方なく美鈴ちゃんの案に乗り、僕達は各々パーティ会場へと向かった。 相手は男。 女装なんて中学時代に培われた能力で何の問題もない。 パーティでは男達にやたらとちやほやされて終わった。 あいつら何しに来てるんだろ。 大事な商談の一つもせずに。…まぁ、僕の目から見たら取引できそうなのは三社くらいかな? 帰りの車の中で僕はタブレットで手早く今日の結果を書きとめて、スマホで美鈴ちゃんに連絡をする。 するとあっちも似たようなもんだったらしい。 しかも結果はこっちよりも悪い。 車を回して貰い美鈴ちゃんを迎えに行くと、僕の隣に乗りこんだ美鈴ちゃんはぐったりとしていた。 「すんごい貪欲な女子しかいなかったんだけど…交換して正解だったね、優兎」 「美鈴ちゃん。口紅の痕だらけだよ」 「うん
優兎くん誘拐事件から早一か月。私達はドレスアップをしてホテルに来ていた。その理由は―――。『新郎新婦の初めての共同作業。ケーキ入刀です』司会のお姉さんが宣言して。会場が沸く。そして、ケーキに二人仲良く入刀するドレス姿の桃とタキシード姿の巳華院くん。「……美鈴ちゃん。見て、これ」「ふみ?」隣に座る優兎くんに声かけられて、優兎くんが見ているメニュー票を覗き込んだ。「全ての料理に隠し味プロテインが入ってるんだけど…」「……どんだけ…?」「これに気付いちゃうと食べるの怖くなっちゃうんだけど…」「プロテイン、食べちゃ駄目ってどんな人だっけ?アレルギーとか…」お馴染みの遠い目。優兎くんと並んで遠い目。いや、良いんだけどね?桃も巳華院くんも幸せそうだから。良いんだけど、何でだろう?とても複雑。…桃、本当に彼で良かったの?喉まで出かかってる言葉をごくんする。『それではこれより新郎によるパフォーマンスに入らせて頂きます』……ん?『こちらは新郎様のたっての希望でご来賓の皆様がお食事をより楽しんで頂きたいとのことで…』………おかしげな事になってるよ?あーあー、巳華院くんのパフォーマンスが、筋肉パフォーマンスが始まっちゃったよ。これみながら食事するの?え?これ、なんの会だっけ?良くあるあのボディービルダーのショーだっけ?「……優兎くん。これってえっとボディービルダーのディナーショーだっけ?」「ううん。結婚式」「えっ!?」「美鈴ちゃん現実は受け入れようね」出て来た料理を現実逃避しながら黙々食べ続ける。私と優兎くんに限らず、来賓がみーんな意識を違う所へ吹っ飛ばしながら、桃と巳華院くんの幸せな結婚式は終了した。真っ直ぐ帰っても良いんだけど、今日は優兎くんが車を出してくれたので寄り道をしようと決めていた。何処に行くかと昨日相談していたのだけど、優兎くんが猫カフェはどう?と言ってくれたので、瞬時に賛成札を上げさせて頂いた。ちゃーんと猫に触れられるようにラフな格好に着替えて。優兎くんが下調べしてくれた猫カフェに直行。手を消毒して、店員のお姉さんに説明を聞いて。しこたまにゃんにゃんと戯れまくって。優兎くんに呆れられつつも、そんなの構うものかと戯れまくって。やっと我に帰ったのが三十分後でした。「満足した?美鈴ちゃん」ソファに座
「優兎くん。体は平気?」 「うん。大丈夫。金山さんの薬って本当に怖いね…」 「ねー…」 優兎くんと二人車に乗って、夜の市内を走っていた。 「お嬢様。このまま向かっても宜しいですか?」 「うん。大丈夫だよ。優兎くんをこんな目に合わせた人間を潰さないとね」 ニッコリと笑顔で答える私の背後はきっと真っ黒だと思う。 真珠さんが何故か嬉しそうに笑っていたけれど、理由は分からない。 今向かってるのは優兎くんを狙った優兎くんの叔父の家だ。 「現状、優兎くんの従兄弟達は皆金山さんに捕獲されたけど、オリビアちゃんとその叔父だけは逃げ遂せた。この情報に間違いはない?真珠さん」 「はい。確認済みです」 「そう。じゃあ、しっかりバッチリ私の手でオリビアちゃんに仕返し出来るね…」 「美鈴ちゃん…。その黒さ、僕は嫌いじゃないけど、周りに人がいる時はしないようにね」 「ふみ?」 「小首傾げて誤魔化すのはずるいから」 優兎くん…動じなくなっちゃったなぁ…。 強くなっちゃって、ずっと成長を見守っていた私としては嬉しいやら悲しいやら。 生暖かい目で見守っちゃっても仕方ないよね、うん。 さ、てと。 目的地につくまでもう少し時間があるだろうから、一応華菜ちゃんに連絡も取っておこうかな。 私達が乗っている車の後ろを追随している車に華菜ちゃんと逢坂くんが乗っている。 運転手として銅本さん。そして、もう一人。 くるっと私は振り返ると、助手席に座る華菜ちゃんのお母さんが私に向かって手を振ってくれた。 バッチリドレスを着こんでいるその姿はとても綺麗で思わず微笑んでしまう。 「…良く、一緒に行くって言ってくれたよね。華菜ちゃんのお母様」 「自分の事、だからだろうね。本当の所を知りたいってのと、華菜ちゃんを守りたいってのと…母親だもの。色々私達の解らない感情があるんじゃないかな?」 「…そうかもしれないね」 「娘である私がママのこと未だに理解出来ない時あるし」 「…美鈴ちゃんの所の場合だとちょっと特殊が過ぎるから」 二人仲良く遠い目をする。 っと、忘れる所だった。華菜ちゃんに連絡、連絡ーっと。 ノートパソコンを取りだして、直ぐに起動する。 と同時にスマホを取りだして華菜ちゃんに電話。 コール音を聞く事なく電話は直ぐに繋がった。 『はいはーい。美鈴ちゃ
花崎が全力で美鈴の部屋に行くのをゆっくりと追い掛け遅れて佳織母さんの部屋に入ると。 「美鈴ちゃんっ!無事で良かったぁっ!」 「いや、私は無事だよ?今無事じゃないのは、華菜ちゃんの下にいる、あばらが折れてる優兎くんかな」 「………うぐぐ…」 「よいしょっ…優兎くん、生きてる?」 「な、んとか…」 ベッドの上に乗り上げていた花崎を美鈴が降ろして、優兎の無事を確認して、やっと俺に気付く。 「鴇お兄ちゃん。華菜ちゃんがここにいるって事は」 「問題ない。全て無事に助け出した」 「そっか。良かったぁ。じゃあ後は本当にあの馬鹿共を潰すだけだねっ!」 ぐっと俺の方へ親指を上げて見せる美鈴に静かに頷いた。 「金山と親父には財閥経営に関する事は全て委任してある。それから」 「待って、鴇兄。僕にも分かる様に説明して貰える?」 「…解ってる。だがちょっと待て。その前に美鈴に説明が必要だ」 財閥運営に関する要点だけを美鈴に言うと、美鈴は了解と言って部屋を出て行った。 「美鈴ちゃんっ、私も行くっ」 そう言って出て行く花崎を見送ってから俺はもう一度優兎と向き合った。 「さて、何処から説明するか。まずは花崎の所からか?」 優兎が頷くのを確認して、俺は記憶を順番に辿る様に話を始めた。美鈴と二人優兎を連れ戻した後。 白鳥家の居間で俺と美鈴は情報のすり合わせと作戦会議をしていた。 「鴇お兄ちゃん。優兎は私がどうにかするから、華菜ちゃんの方を、お願い」 「居場所は?」 「上手く動いていれば、ママの仕事場。動けていないようであれば、コンツェルンの日本支社」 俺の予想と一致している。 さて、だとしたら…。 美鈴に優兎を託して、俺は家を出て車に乗りこんだ。 まずは花崎の家に行ってみるべきか。 車を花崎の家へと走らせる。だがそこは臨時休業の札が下がっており人の気配はなかった。 佳織母さんの仕事場…美鈴と佳織母さんが昔一緒に暮らしていた家に向かってみるか。 直ぐに車に乗りこみ、最短ルートを頭の中に組み立てて向かった。 マンションに辿り着き、佳織母さんに渡されていた鍵を使い中へと入る。 そこで目に入ったのは…。倒れている花崎の父親の姿だった。「大丈夫ですかっ!?」 叫び駆け寄って。 (下手に揺らしても駄目だな。まずは救急車の手配を) 携帯電話
それから、襲撃のある8日まで。私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。…私、本当にこれでいいのかなぁ…?ちょっと不安に
「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。
私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でも
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」「確かに。姫が一番可愛いな」「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。